インターネットのけもの

全て妄想です。

高野山に中原岬の影を見た

高野山1万人ご招待キャンペーン」とかいうものに当選したため、高野山に来ています。1万人も当選者がいるということで、豪運の持ち主である僕は当然のように当選したのでした。

otent-nankai.jp

 

最初に断っておきますが、僕はすでに悟りを開ききった僧のように雑念がなく、煩悩という言葉から最も縁遠いところに位置する人間です。

大地のように堅牢でありながらも、流れる水のように変化に富み、火のように熱く動く。風のように颯爽と成長していき、空のように自由でありつづける。

そんな男でありますから、真言宗の聖地である高野山に行くといっても全く気負うところはありません。高野山に行くのは初めてのことでしたが、ぼくはまるで近所のコンビニに向かうがごとくの気楽さで出かけてきたのでした。

 

キャンペーン特典である高野山駅までの往復切符をつかって悠々と無料で電車に乗り込みます。この切符だけで3000円近くの得だというのですから最初から笑顔がとまりません。

僕は煩悩など全くないつもりではありましたが、ことお金のことに関していえば、貰えるものはすべて貰っておけという乞食精神全開なところがありました。もしかすると、世の中ではこういう人のことを「煩悩がない」とは言わないのかもしれません。

 

高野山駅についてからは、バスに乗り込み中心地を目指すことになります。このバスに関してもキャンペーンで乗り放題切符が貰えるので一銭も出す必要がありません。なんとも嬉しいことです。

最初からメインの観光地である「奥の院」へ向かうことも考えましたが、ひとまずは町の中心部である「千手院橋」で降り、高野山観光協会へと向かうことにしました。

 

観光協会では、「聖地高野山応援プレミアム付商品券」を買うことができます。

これは2000円で5000円分の商品券が買えるというとんでもないもので、高野山での観光を考えているなら必須です。2000円が2.5倍の価値に化けるわけですからね。まだ何も買い物をしていないどころか、観光すらしていないのに満足感たっぷりです。

www.town.koya.wakayama.jp

 

せっかくなので商品券を使ってどこかで昼食をとろうかとも思ったのですが、時間帯が悪くどこも並んでいるようでした。

仕方がないので昼食は時間をずらすことにし、先に観光を始めることに。

 

それにしても高野山は寺院の数がめちゃくちゃ多い。

多いのは知っていましたが、驚くべきはその密度です。ある寺院を出て50mも歩けばもう次の寺院が目に入ります。しかもどこも綺麗に手入れされています。

京都も寺院が多く、街中でもよく見かけるものでしたが、高野山ほどではありませんでした。今でこそコロナウイルスの影響でいませんが、去年までは外国人旅行客で賑わっていたというのも頷けます。

 

そうしてあちこちの寺院を覗きながら進んでいるうちに、いつの間にか「奥の院」の入り口である「一の橋」へ。ここからが「奥の院」の敷地となり、最奥には弘法大師が今なお禅定に入っているとされる「弘法大師御廟」が待ち受けています。

途中、「中の橋」を渡りながら進む参道沿いには、20万基以上あるという墓碑が並びます。かなり異様な空間ではありますが、不思議と恐ろしさはなく、たただた幻想的な空間に迷い込んだような気分にさせてくれました。戦国武将の名前なんかも見かけることがあるので結構楽しめます。

 

そんな調子で20分ほどかかって進むと、「御廟橋」が見えてきました。この橋を渡った先が「弘法大師御廟」です。ここから先は霊域とされ、写真撮影などは禁止になっています。

そしてこの先で、僕はこの旅が忘れられなくなる、決定的なものを見たのでした。

 

 

はじめ、その子は一人で来ているように見えました。

全身真っ黒という出で立ちで、髪も黒ければマスクも黒い、少し目を引く女の子でした。

ですがよく見ると近くにはお婆ちゃんと思われる人がおり、どうやらその付き添いか何かで来ているようでした。

お婆ちゃんの方は対照的に真っ白な羽織を羽織っており、背中には何やら達筆な文字で難しい文句と「同行二人」という文字が見て取れました。そして、その羽織を着ている人は周囲に20人くらいいるようでした。おそらく、お遍路にまつわる何かしらの団体なのでしょう。

その団体において、女の子の存在は異質でした。

服装はもちろんのこと、年齢層も全くかみ合っていません。団体はどう見積もっても50歳を下回る人はいませんでしたが、女の子はまだ10代後半といったところでしょう。お婆ちゃん以外の誰とも話さず、お婆ちゃんが誰かと話しているときは一人離れたところでポツンとしていました。

そしてとうとうその団体が御廟でお経を唱えだしたときには、その子だけは何も唱えずただお婆ちゃんの隣で一緒に立っていたのです。

僕はこれが何なのかを知っているような気がしました。

これはきっと、中原岬なのです。

NHKにようこそ!」に登場する名ヒロイン、岬ちゃんが今、僕の目の前に現れたのです。

親戚の宗教的活動に付き添う健気さ、そうありつつも周囲からは同一視されたくないジレンマ(岬ちゃんは作中において「変装」という言葉を使っていましたが、この子の場合は白羽織への対抗としての黒い衣装があるのでは?)、どこか憂いを帯びた整った顔立ち、どこをとっても岬ちゃんとの類似点が浮かび上がります。

(もしかしたら、この子は僕を退屈な日常から救い出しに来てくれたのかもしれない…)

僕がそう思ってしまったのも無理はないでしょう。

ひょっとすると、僕が今日はじめて高野山に来ることになったのも何かの思し召しなのか?仏さまが、弘法大師さまがこの巡り合わせをくださったのか?僕の人生はここから劇的な変化を見せるのか?!

とかそんなことを考えていたのですが、いつの間にか白羽織の集団はどこかへ消えていました。当然あの女の子ももういませんでした。

 

こうして今日も僕の人生は何も変わらないのでした。とかで終わろうと思いましたけど終わりません。

というかね、ぶっちゃけると全部嘘ですよ嘘。岬ちゃんみたいな子がいたなんて嘘。

弘法大師がおわす御廟で「岬ちゃんが僕を救いに来たんだあ!」なんて頭のおかしい妄執にとらわれた人間が存在していいはずがない。まさかそんな、団体と岬ちゃんの行動を見るのに夢中で御廟内がどんな感じだったかロクに覚えちゃいないだなんて、そんなことあっていいはずがありません。どんだけ煩悩に溢れているんだって話ですよ。普通に通報されても文句言えないレベルです。

だから嘘。さっきの段落で書いたことは嘘なのです。聞こえのいい言葉で言えばフィクションね。なぜか御廟内はもう1周することになったけど岬ちゃんなんていませんでした。

 

そんな阿呆な振る舞いをしているうちに宿のチェックイン時間が来ていたのでバスで宿へと向かいます。乗り放題切符のおかげで当然無料。岬ちゃんを失った悲しみも癒えるってもんです。いや、岬ちゃんは最初からいないんだった。

 

そして今、これを書いている僕がいるのが宿坊「報恩院」です。

寺院に泊まるというのは初めての経験ではありますが、趣があってなかなか良いものです。早朝には勤行が行われており、宿泊者は参加可能とのことなので明日は参加してみようと思います。

www.hoon-in.com

本来なら1泊15000円だったのですが、GoToトラベルが適用されて9750円、さらに僕は「高野山1万人ご招待キャンペーン」でもらった宿坊で使える3000円分のクーポンがあるので、実費負担は本来の半額以下である6750円です。GoToトラベルで貰える地域共通クーポンが2000円分あることを考えると実質的には約1/3の価格で泊っているようなもんです。

 

結局今日のところは使うタイミングがなく、商品券が5000円分、「高野山1万人ご招待キャンペーン」でもらったお土産や食事で使えるクーポンが3000円分、地域共通クーポンが2000円分の計10000円分も残ってしまいました。

どうやら明日は贅沢に過ごせそうです。

そうやって贅沢に過ごして、少しでも煩悩が消え去ってくれたら良いのですが。