インターネットのけもの

全て妄想です。

頑張れアルアイン

2017年9月18日

 

僕はこの日を忘れることはないでしょう。

今まで生きてきたなかで、この日ほど一瞬の選択とタイミングが重要なのだと実感させてくれた日はなかったからです。

この日、僕は選択を誤り、タイミングを計りきれなかったばかりに、30万円という大金を失いました・・・。

 

9月18日は三連休の最終日でしたが、そんなことは連休全出勤の僕にはまったくもって関係なく、普段通りに出勤しておりました。ただいつもと違っていたのは、名古屋に出張中であったということ、競馬開催日であり、僕が待ち望んでいた、大好きな馬が出走するレースが行われる日であったということです。

このレースに対する僕の見解は、「完全なる一強、予想するまでもない」であり、大学生と小学生が徒競走をするようなものだとさえ考えておりました。大きなレースで活躍してきた実績を持つのがアルアインという馬のみで、他の馬の成績は散々なものです。こんな面子でどうやったらアルアインが負けるのだろうか、なんなら脚を一本封印していても勝てるレベルなんじゃないのか、アルアイン以外の馬券を買うやつは競走という概念が理解できないレベルのバカとしか思えませんでした。

そういうわけで、前日にはアルアイン単勝を買うと決まっていたわけですが、問題は金額です。僕は大きく賭けたことはなかったのですが、これはもう勝ちが確定しているようなもの。5万円賭けようか、いや思い切って10万円いっちゃうか・・・?結局、前日までに金額は決めきれず、当日のオッズを見て判断しようというなんとも腑抜けた決断を下してしまいました。

 

そしてレース当日を迎えます。

とはいえ、普段と変わらず朝から出勤でしたので、レースが始まるまでは適当に働いているふりをしておくしかありません。放っておいてもこの後大金が転がり込んでくるのです。なんで休日全部出勤なんて狂ったことをしなけりゃいかんのだと、全くやる気になりませんでした。

そしてお昼を迎えた頃、あることに気付いてしまいます。あ、これもしかして昼休憩の時間ずらせば直接馬券を買いにいけるんじゃ・・・?

仕事だったため、ネットで馬券を購入しようと思っていたのですが、どうやら一駅離れたところにWINS(場外馬券場)があり、そこに買いに行けそうなのです。

まあ、時刻表を確認してみると本数がおもったより少なく、WINSまで行ってレース見て帰ってくるのに、昼休憩の時間で定められている1時間をどうやっても余裕でオーバーしてしまうという問題はありましたが、些細なことです。だって、どう考えても休日に働くなんておかしいことですからね。

そうと決まれば、仕事(をしているふり)は続行です。レースは15時45分からなので30分くらいにWINSに着くように出ればいいでしょう。

 

15時になり職場を飛び出します。もう少し遅くても良かったのですが、我慢できませんでした。

この時、アルアインのオッズを確認してみると、単勝1.9倍、複勝1.2倍という僕からすれば到底信じられないオッズになっていました。特に複勝1.2倍というのは驚異的です。3着を外す確率など、朝起きたら母親がアイドルとしてデビューしていたとかそんな確率です。これは複勝にドカンといくのもありかもしれないなといらぬ欲も出てきました。

そのまま電車に乗ろうとしたものの、手持ちの現金が全くないことに気づきます。ネットで買うつもりだったので下ろしてなかったのです。これでは馬券を買うどころではないので、ATMへと急ぎます。

ATMはすぐに見つかったのですが、ここでひとつ問題が。ここまで来て単勝を買うのか、複勝を買うのか、いくら買うのかが全く決まっていないのです。昨日は単勝を5万か10万と決めていたにも関わらず、複勝のオッズを見てすっかり心が揺らいでしまったのです。

そこに飛び込んでくる残高300000の文字。そこから僕の頭脳は輝かしい計算を導きます。

300000×1.2=360000 → +60000

そこからの僕の動きは迅速で、ATMから貯金を全額下ろすと同時に、電車にダッシュ。はち切れんばかりの財布と共に光の速さで戦場(WINS)へと向かうのでした。

 

戦場(WINS)へと赴いた僕を待っていたのは過酷な現実でした。アルアイン複勝オッズが1.2倍から1.1倍へと下がってしまっていたのです。これでは+30000にしかなりません。3万円は十分魅力的ですが、30万円も使ってそれだけでは割に合いません。この時点で、僕の中から複勝という選択肢は消滅してしまいました。

そうと決まれば買うのは単勝で決まりなのですが、単勝の場合いくら買うか未だに決まっておりません。単勝のオッズも1.9倍から1.8倍へと下がっていましたが、まだ許容範囲内でしょう。思い切って10万円賭ければ8万円も儲かるわけですから。

しかし、ここで僕の中にいた悪魔が産声をあげました。出張先でのいつもと違う雰囲気、普段持ち歩くことのない金額、圧倒的な実力差、魅力的なオッズ、これらから導き出された悪魔的な計算に抗うすべを僕は知らず、悪魔の誕生を止めることなど出来はしなかったのです。

悪魔は僕に囁きます。

300000×1.8=540000 → +240000

結論は出ました。

 

少し迷いはしたものの、僕は結局この数式に魅せられてしまっていたのです。

そもそも、どうやったら負けるんだというレベルの馬が、1.8倍はつきすぎです。ここで自分を信じなくていつ信じるんだ、ここで勝負できないやつは一生舞台に上がれないぞ!など、自分でもよくわからない感情が込み上がってきたこともあり、最後には迷いも消え、清らかな心で馬券を購入することが出来ました。

購入直後にオッズが1.8倍から1.7倍に下がるというハプニングも有りましたが、明鏡止水の僕はもう動揺することはありませんでした。

 

15時45分。

レースがスタートします。

アルアインは中々のスタートを切り、道中もいいポジションにいます。この時点で、半ば勝ちを確信していました。このまま進めれば勝てる。いける。

最終コーナーをまわって最後の直線、アルアインバツグンの位置にいます。そのままグイグイと伸びて先頭に躍り出ます。勝った!

 

と思ったのもつかの間、隣からへんな馬が物凄い勢いで突っ込んできて並ぶ間もなくアルアインを抜き去っていきました。なにこれ夢?

僕はこの時、おそらく「まじかー!!」と叫んだと思うのですが、あまり良く覚えていません。どうもこのあたりの記憶は曖昧で、気付いたらアルアインが2着でゴールしているところでした。

どうしようもない感情が僕の心を支配していきましたが、なんだがぐるぐると歩き回った後にしばらく座り込んでいると、もうなんともありませんでした。このあたり、僕はセルフコントロール力がずば抜けて高いのかもしれません。

30万円失って案外自分がタフなことに気づくことが出来ました。高すぎる授業料ではありましたが。あと、これだけ金を奪われてもどうやら僕はアルアインがまだ好きなようです。貢ぎまくるタイプなのかもしれない。

 

その後はしれっと職場に戻り、何食わぬ顔で仕事を始めました。不思議なことに、午前中はなかったはずのやる気がモリモリと湧いてきて、やらねばという使命感のもと、サボっていた分をみるみるうちに片付ける事ができました。

今まで、競馬で負けた日は何もやる気にならず、ふて寝ばかりしていたわけですが、どうやら大きな金額負けてしまうと却ってやる気になるようです。こんな別に知りたくなかったことを教えてくれてありがとう、アルアイン。お前から教わることは多かったよ。

 

 

ちなみに本日10月22日はアルアインも出走するGⅠ菊花賞の日だったので、台風が接近している中観戦してきました。

大雨のなか走る馬たちは皆格好良く、泥だらけになりながら勝利を目指す姿を見ていると、嵐の中来た甲斐があったなと思いました。

肝心の菊花賞の結果は、アルアインが7着とすこし残念な結果になりましたが、泥だらけになりながらも懸命に伸びようとしてくる姿勢に、僕はますますこの馬が好きになりました。また金を取られてはいきましたが。

この先どれだけ毟られていくことになるのか、いずれか大きな恩返しがあるのか、それはわかりませんが、僕はこれからもアルアインを応援していきます。