インターネットのけもの

全て妄想です。

世の優しさに触れた

以前より述べさせていただいているように、僕は業務時間中であっても豪胆に居眠りをこける益荒男であったわけですが、どうにも最近はそうも言っていられないような事情に襲われてしまっているのでした。

 

といいますのも、我が職場でもこの4月に異動というものがあり、それに伴って席替えとかいう小学校みたいなイベントが行われたのですが、その結果としてなぜだかわからないうちに、前後左右に役職が2つも3つも上の上司が集まったばかりか、斜め前の座席には部署で一番偉い人が座るという意味のわからない配置になってしまったからです。周りを見渡しても同期がいないどころか、勤続年数が10も20も離れている人ばかり。同じ20代の先輩すらいないという有様ですから、これはもうたまったものではありません。

そもそもなんでこんな配置になってしまったかといえば、誠に情けない話になるのですが、どうやらうちの職場にも人間関係の良し悪しといったものがあるらしく、手っ取り早く言ってしまうと、「嫌なあいつの近くは勘弁!」という意見を考慮した結果だったというのですから、ただただ驚くばかりです。(40、50を超えたおっさんの口から飛び出した「だってその席やと、座っただけで目につくやん?」というセリフには驚きを通り越して感動してしまいました!)(それと同時に折り合いなんて付けなくていいんだと勇気づけられました!)

僕は社会人になってからは学生の時とは違い、嫌なヤツとも上手く付き合っていかなければならないんだろうなあと思っていましたが、どうやら現実は「あの子とあの子は喧嘩するから遠ざけよう」的な小学生の担任レベルの気遣いがあって成り立っていたと知り、世の中は小さな努力の積み重ねで成り立っているのだと実感しました。

 

ただそんな配慮の結果、とばっちりをうけたのはどう考えても僕であり、これまで悠々と仕事に向き合うというスタンスでやってきた僕の仕事スタイルが乱されるのは必至です。まあ悠々と、というか働き方改革と称して手が抜けるところは全部抜く、なんなら余った時間は居眠りこいてるという完全に舐め腐った態度なだけとも言えますが、それでもやることはやっていたから何とかお目溢し頂けていた状態だったわけです。

それがこんな上司ばっかりの空間に投げ込まれては、仕事が終わりそうな気配を察せられたが最後、賽の河原ばりに仕事をドンドコ積み上げるハメになることでしょう。そしてまた、それが終わる頃には…、という無限ループに囚われてしまう恐れすらあります。というかそもそも、こんなやりにくい空間で仕事なんかしたくありません。どうか、どうかもう一度くらい職場で揉め事が発生して席替えがまた変更になりますように…。僕がそう願ったのも無理はありませんでした。

 

そんな願いも虚しく、席替えは淡々と実行されてしまったのですが、結果としては、なんというか思っていたよりは仕事がやりにくくない、というか上司たちは自席にいる頻度が低いのでむしろ楽になった…、っていうか?あれ?これ結構楽かもしれない!

もちろん上司たちが自席にいるときは別にこちらは悪いことをしているわけではないのに、妙なやりにくさを感じていることもあったのですが、席に居ない時間のほうが長いので、以前にもまして悠々と仕事ができているのではないかと感じられる節すらあります。慣れてくるとそのやりにくさを感じることもなくなり、以前とほとんど変わらない調子で仕事を進めることが出来ている自分に気づくことが出来ました。

 

予想していたよりも緊張感がなかったことが災いしたのでしょうか。席替えから三日も経つ頃には完全に以前の調子に戻ってしまい、また自席で豪快に居眠りをこくようになってしまっていました。それも上司が自席にいるときでもお構いなしに居眠りをしてしまうという、進化したくない方向に豪快さを進化させて居眠りしているのですからタチが悪い。明らかに見られているのに次の瞬間には舟をこいでジャーキング(寝ている時に体がビクッってなるやつ)を起こしているのですからバレバレなのは疑いようがありません。マズイなあとは思っていたものの、特に対策を講じることも無いままに時間は過ぎていったのでした。

そして運命の日。

上司からの「ちょっといいかな」の一言で僕は全てを察していました。なぜなら以前に居眠りを注意されたときと全く同じトーンだったからです。どこか優しい声ではありましたが、流石に二回目ともなるとどれほどのお叱りが飛んでくるのか、心臓をバクバクとさせながら会議室に導かれていくのでした。

ですが、そこで発せられた一言は僕の予想を大きく裏切るものだったのです。

「最近さあ、ちゃんと寝れてるか?」

「はあ…」

どうやら上司は、僕が仕事のストレスやなんやでうまく眠れていないのでは?そのせいで日中に居眠りをしてしまっているのでは?と考えていたようです。どう考えればこんな前向きな考えに至るのか全く不明ですが、これはチャンスです。この機会に、今までの居眠りを含めて全て有耶無耶にしてしまえばいい、そう頭をよぎったのですが、よく考えてみると、ここでストレス性の云々といったら後々面倒臭そうですし、なにより心配してくれた上司に嘘をつくのも憚れます。そこでただ、「しっかり眠っているつもりなのですが…、居眠りは気をつけます」とだけ伝えました。僕は誠実な男です。

上司側も納得してくれ、「皆眠たいときは外行ったりして上手くやってるから、ずっと自席におる必要もないよ」と優しいアドバイスまでしてくれます。ありがとう、ありがとうございます…。これからは眠くなっても上手く立ち回るようします!

 

午後の業務。

そこにはアホ面を晒して眠りこける僕の姿がありました。

上司はもう何も言いませんでした。