インターネットのけもの

全て妄想です。

秋山瑞人の源流を探る

僕は秋山瑞人という作家を崇拝していると言っても過言ではないほど耽溺しています。読んでいて気持ちよくなるほどに疾走感に溢れた描写、シンプルながらも緻密に練り上げられたことを感じられるストーリー、どれもが僕の琴線に触れまくり、かれこれ10年以上は彼の文章を読み続けています。

ですが、そんな彼にもたった一つの欠点がありました。

書かない。続編をいくら待ち望めど、それが出来上がってくることが無い。

秋山瑞人は異常なまでに遅筆でした。

10年以上読み続けていると書きましたが、これは何も新作を欠かさずチェックしているとかそういうわけではなく、ただただ同じ作品を繰り返し繰り返し読み込んでいるだけです。

現在出版されている作品のうち、短編を除く6作品中、完結したのは3作品のみ。デビュー作である「E.G.コンバット」に至っては、色々と事情があるにせよ、最終巻を残したまま20年以上が過ぎてしまっている始末。最新作の「DRAGON BUSTER」は2008年に一巻が、2012年に二巻が出たきりで音沙汰もなく、ファンの間では度々死亡説が飛び交ったほどです。

この死亡説は2018年にある作品と絡めた「UFOの日:秋山瑞人からのメッセージ」が発表されたことにより解消されたのですが、内容としては作家としての活動を辞めてしまうとも捉えられるものとなっており、一ファンである僕としても、数年ぶりに新作の文章が読めた喜びと、もう書かないと明言されてしまったような悲しみとで、複雑な思いになったのをよく覚えています。

 

新作を望む声は未だに枯れていませんが、それが絶望的なのもまた事実。

それならばせめてと、彼の読書歴をなぞることでわずかでも嗜好を理解し、また、それを取り込むことでほんの僅かでも秋山瑞人のエッセンスを己のものに出来ないものかと考えました。また、好きな人が好きなものは自分も楽しめるだろうという浅薄な考えもありました。

思いついた当時は、なんて素晴らしいアイデアなんだ!!と自分を褒めていたのですが、ある程度読み終わった今にして思えば、別に同じものを食って育てば同じものが出来上がるわけでもなし、思いつきにも程があるなあといった感じです。

ですが、やはり自分の好きなものの源流を探るという行為はどうしようもなく魅力的なものであり、また、読んだ作品自体も良質なもの揃いで楽しめたため、せっかくなので感想を書いて残しておきます。

今回はSFハンドブックに掲載されたSFマイ・ベスト5の作品を読みました。

他には「テイルチェイサーの歌」や「アルジャーノンに花束を」とかも読んだけど今回は割愛。

 

あらすじは図書館の蔵書検索で引っかかったやつをパクってきたやつ。短くまとまっていて良い仕事をしていますね。

 

 

・「エンダーのゲーム」

地球は恐るべきバガーの二度にわたる侵攻をかろうじて撃退した。容赦なく人々を殺戮し、地球人の呼びかけにまったく答えようとしない昆虫型異星人バガー。その第三次攻撃に備え、優秀な艦隊指揮官を育成すべく、バトル・スクールは設立された。そこで、コンピュータ・ゲームから無重力訓練エリアでの模擬戦闘まで、あらゆる訓練で最高の成績をおさめた天才少年エンダーの成長を描いた、ヒューゴー賞/ネビュラ賞受賞作!

 

5作品の中で最初に読んだ作品。2013年に映画化もされているし一般的な知名度は一番高いのかもしれない。翻訳がうまいのか、非常に読みやすくてスラスラ読めた。

エンダーは天才というだけあって次々と発生する試練をどんどんクリアしていくのですが、それは能力任せのいわゆる無双状態ではなく、時には真正面から、時には搦め手で、仲間と団結し成長を重ねながら、困難な試練に立ち向かっていく王道的なものでした。多分死ぬまでジャンプを読んでいる、いつまでも少年のままの僕にとって刺さらないはずがありません。気がつけば、最終章を3回読み返している僕がいました。

宇宙にいるエンダーが主題の物語ではあるのですが、地球にいるエンダーの兄と姉の物語も並行して展開されます。彼らもまた優秀で、二人の活躍だけでも一冊の小説として完成させられるのではないかと言うほどです。エンダーにとっても大きな存在である彼らは、物語の要所要所で存在感を増し、結末をより説得力のあるものへとしてくれます。

読み終わったその日に映画も見たのですが、まあこちらは見なくていいです。小説のほうはシリーズ化されており、まだまだ続編が出ているようなので、時間を見て読み進めていこうと思います。どことなくライトノベル的で、僕のように秋山瑞人からSFの世界に入っていこうという人には最初に読んでもらいたい一冊です。

 

 

・「サターン・デッドヒート」

土星の衛星イアペトゥスで、異星人の遺物が発見された。スペースコロニーにある大学の考古学教授クリアスらが表面の図形を解読した結果、驚くべきことがわかった。土星近傍には同じような物体がいくつか隠され、その指示に従えば、異星人が太陽系に残した“贈り物"のありかがわかるというのだ。クリアスは無限のテクノロジーをコロニーのものとすべく旅立ったが、この情報を入手した地球側も急遽宇宙船を派遣。かくして宇宙船同士の白熱したレースが、苛酷な環境の土星系で展開されることになった。最新の科学情報を存分に駆使したファン待望のニュー・ハードSF登場。

 

「エンダーのゲーム」に比べると、かなりSF要素が強まった作品。主要な登場人物は主人公クリアス含めおっさんばかり、主人公の相棒である天才少年も早老症で妙に大人びて描かれている、平均年齢高めの作品です。しかし、だからといって熱が無いわけではなく、物語が展開されるに従って、どんどん熱量を上げてくる、SFにして良質な冒険物語でもありました。

最初は探索にも興味がなく、覇気がなかったクリアスでしたが、途中からは人が変わったように気力が充実し、ただの考古学者だった身でありながら土星探索に加わるようになります。天才少年ジュニアとの名コンビっぷりも見逃せないものがあり、二人のやり取りにはニヤリとさせられるところもありました。

僕はSFというジャンルは、読者が実際には見たことのないものを提示する以上、どこまで細部にハッタリを効かせた文章を示すことが出来るかが重要だと考えているのですが、この作品はそのあたりもしっかりとカバーしており、スペースコロニーでの生活や、土星近傍の探索の描写には妙な現実感がありました。特に土星を眺めるクリアスの描写には、自分も土星を眺めたらこうなるのではないかと錯覚させられるほどでした。

終盤へ向かいながら加速していく熱量は最後に爆発し、ページを捲る手が止まらなくなることでしょう。SF的な描写に抵抗があると楽しむことが難しいかもしれないですが、冒険活劇として読めばそんなことは気にならないほど熱くなれるかもしれない。

 

 

・「大いなる天上の河」

広大な宇宙へ向かって人類はようやく進出しはじめていた。だが、有機生命を敵視する機械文明との遭遇が、人類の運命を大きく変えてしまった。有機生命の抹殺をもくろむ機械文明により、地球と人類は徐々に破滅の道へと追いやられていく…それでも人類は生き延びていた。銀河中心にある年老いた恒星をめぐる惑星スノーグレイド。メカと呼ばれる機械生命の惑星改造のため、寒冷化と砂漠化が進められているこの惑星で、人類は戦いつづけていたのだ!科学者作家ベンフォードが、人類と機械文明の未来を壮大なスケールで描きだす傑作ハードSF。

 

これは読むのが本当にキツかった。ストーリー自体は大変に魅力的で、ジャンルとしても大好物なのですが、如何せん翻訳がきつく、何が書かれているのかピンとこない描写が多すぎて何度も読むのを挫折しそうになりました。

あらすじからも分かるように、ディストピア寄りのポストアポカリプスものという感じです。作品内の固有名詞が非常に多く、当然のように知らない言葉が登場してくるので最初は読むのが大変でした。ただ、読み進めていくうちにそれが何を指しているのか、どんなものなのかが徐々に理解できるようになっていき、終盤ともなると固有名詞だらけの文章でも全く気にならなくなります。このあたりは秋山瑞人も同じですね。文章自体が難解なのは相変わらずなので、こちらの方が理解しにくいところがありますが…。

この時代を生きる人類は我々とは文化も様相もかなり異なっています。それぞれのグループを率いるキャプテンの指示のもとで暮らし、食料を手に入れたりメカと戦ったりしながら放浪の旅を続けています。彼らは身体の一部を機械化しており、電波を感じ取り、電脳化したご先祖様から知識を得たりすることでなんとか生き長らえていました。

設定的には大好きになれそうなのに、肝心の文章がきつすぎるせいで、イマイチ物語に入り込めなかったのが残念でした。ただ、終盤あたりの展開は、ようやく物語を理解していたこともあってか、主人公であるキリーンに感情移入して楽しむことが出来たような気がします。

敵のはずであるメカのマンティスとキリーンの関係が面白く、普段触れる作品が機械と人間の温かい交流であったのに対し、こちらはキリーンは生き延びるために、マンティスは人間のことを知るために、とそれぞれの利害を考慮した冷徹な交流(というか交渉?)になっているのがなかなか新鮮でした。

このあと「光の潮流」に続くこともあってか、ストーリー的にはそこまで山場はありません。謎もかなり残されたままとなってしまいました。正直、中盤のだれた展開を読んでいるあたりで何度か寝そうになった。文章さえ良ければなあ。

 

 

・「クローム襲撃」

全世界のコンピュータ・ネットワークの織りなす情報の宇宙、電脳空間。おれたちは神経系をデッキに直接つないで、この空間に侵入するスーパーハッカーだ。つぎのターゲットはクローム。暗黒街のボスが築いたこのデータの砦を切りくずし、大金をかすめ取ってやる…疾走感あふれるシャープな展開の表題作ほか、『ニューロマンサー』のヒロイン、モリイの若き日々を描く「記憶屋ジョニイ」、さらに記念すべき処女作や、盟友スターリングとの共作など、サイバーパンクSFの旗手として各方面から熱い視線をあびるギブスンが、ハイテク未来を鮮やかに描ききった全10篇を収録!

 

「大いなる天上の河」→「光の潮流」を一気に読むのは不可能と判断したため、最後に読もうと思っていたこいつを先に読みました。恐らく秋山瑞人が大いに影響を受けているであろう「ウィリアム・ギブスン」の短編集です。サイバーパンクというジャンルを語る上で避けて通れない一冊なのでしょうが、僕はまだサイバーパンクの何たるかを理解できていないので、普通に楽しんで読みました。

最初の3篇あたりまでは文体に慣れていないからか、内容がいまいち頭に入ってこず、なんとなくで読み進めていたのですが、途中から急に内容をつかめるようになり、また最初から読み返すというよくわからないことをしていました。

表題作の「クローム襲撃」や、似た世界観の「記憶屋ジョニィ」も楽しんで読めましたが、どちらかと言えば「ニュー・ローズ・ホテル」や「ドッグファイト」、「辺境」あたりの暗い雰囲気が漂う作品のほうがより楽しめたので、ギブスンの書く悲しさのようなものの方が好きになれるのかもしれない。

あの秋山が惚れ込んだ作家、文章なのだから間違いなく面白いはずだ!と思い込んで読み始めてしまっていたのですが、どうも僕には向いていなかったのか、そこまでドハマリすることはなさそうです。もちろん楽しめるし面白いとは思えたのですが、平均よりはちょっと上というほどです。ですが、思い返せば僕が最初に秋山瑞人の文章に触れたときは、「読んでも意味がよく分からない」というどうしようもない理由で読むのを止めてしまっていたので、どこかで急にギブスンにハマる日も来るかもしれません。とりえず次は「ニューロマンサー」を読んでから考えます。

 

 

・「光の潮流」

はるかな未来、有機生命の抹殺をもくろむ機械生命メカの仮借ない攻撃に、惑星スノーグレイドの人類は滅亡寸前にまで追いつめられていた。ビショップ族のキリーンとその仲間は、メカの襲撃に窮地に立たされながら、古代地球人の遺産である宇宙船〈アルゴ〉を発見し、スノーグレイド脱出に成功、新たな故郷を求めて旅立った。そしていま、彼らの前に居住の可能性を示す惑星が現われた。メカのものらしいステーションを避けて惑星に着陸しようとしたキリーンたちだったが、突如〈アルゴ〉が制御不能におちいりステーションに向かいはじめた…。

 

「大いなる天上の河」の続き。前作に比べると哲学的な色が強くなったような気がする。前作で敵として描かれていたメカに加え、今作からはポディアというサイボーグの種族が登場します。ポディアたちは人類よりもはるかに進んだ存在であり、メカをも討ち滅ぼす力を持っています。人類のことは単なる「下等生物」としてしか見ていません。このポディアの一人であるクゥアートと変わらず主人公のキリーン、それぞれの視点が入れ替わりながら物語は進行していきます。

キリーン側で理解できない現象が発生していた裏ではクゥアートが糸を引いていたり、それぞれの事情が作用して展開されていくストーリーには引き込まれるものがありました。

当初はキリーンたちを「下等生物」として見下していたクゥアートでしたが、キリーンを通じて人類を理解していくうちに、いつしか人類と対等な関係になっていきます。そして最後には…、となるのですが、どうやらこのシリーズはまだ続いているらしく、一旦の区切りを置いたところで物語は終了します。

前作からの謎が解決するんだろうと思って読み進めていたのですが、さらなる謎が増えて終わってしまったことを理解し、呆然とすることしか出来ませんでした。

ただ、「E.G.コンバット」で出てきた自由落下坑(ブラジルエクスプレス)の元ネタとしか思えないネタが出てきた時にはテンションがぶち上がりました。登場させる舞台装置は同じでも、作者によってアプローチにこういう差が出るのかと、源流を探りはじめて一番強く実感出来た箇所です。

ここで「大いなる天上の河」と「光の潮流」を読んでいて感じたことを無理やり説明すると、作者であるベンフォードはこの作品を通じて人類が存在する意味を問いかけようとしているのではないかということが挙げられます。この世界には人類より遥かに優れた存在であるメカ、ポディアがいます。人類は追いやられるだけの存在で、暮らしていくためにメカの設備を利用したりと、もはや自力で生きていくのも困難な有様。そんな中で人類が生きていく意味とはなんなのか。

ベンフォードは作品の中で「夢見る脊椎動物」という表現を使いました。夢を見ないメカと対比させた表現なのでしょうが、ここに人類が存在する意味があるのでしょう。

ストーリーは好きなのに文章がきつくて読む気がしないという妙な作品ではありますが、せっかく続きが出ているようであればどこかのタイミングで読んでみようかなと。流石にすぐに読む気はしませんが…。

 

 

5作品程度では源流を探ったとは到底言えないので、これからもこの活動は継続して進めていこう。

以下、源流を探るためのリスト

・「テイルチェイサーの歌」(読了)

・「宇宙の孤児」(読了)

・「アルジャーノンに花束を」(読了)

・「鼠と竜のゲーム」

・「餓狼伝

・「姑獲鳥の夏

・ウイリアム・ギブスン

ブルース・スターリング