インターネットのけもの

全て妄想です。

合法ロリの時代

いつものごとく昼休みに爆睡を決め込もうとしていたところに、唐突に「合法ロリ」なんて言葉が耳に突き刺さってきたものですから、僕の睡魔がいくら強靭なものとはいえ、このマジックワードの前には為す術もなく吹き飛んでいってしまったのでした。

一体誰が会社というビジネスの場にまったくもって相応しくない言葉を吐いたのかと見回したところ、なんてことはない、隣りにいた先輩が下卑たニヤケ面で「これからの時代は合法ロリの時代なんですよ!」と上司に熱弁を奮っていたので、「ああ、この人は連日の勤務に耐えかねてとうとう頭がおかしくなってしまったのだろうか」と彼のこれからについて同情せずにはいられませんでした。

 

よくよく話を聞いてみると、というかまあぶっちゃけあまり親しくない先輩だったのでほとんど盗み聞きと言えなくはないのですが、とにかく話を聞いてみたところ、どうやらこの先輩は年の離れた奥さんを娶ったらしく、その方の容姿がもはや10代と言ってしまっても過言ではないほど実年齢よりも幼く見えるものであることを自慢していたようです。家庭の話をするにしてもなぜこんな訳のわからない自慢をしているのか、こんな話を聞かされる上司は笑顔の裏側で何を思っているのか、など疑問は尽きないのですが、なんだか面白そうな気配がしたため、貴重な睡眠時間を削って二人の話に聞き耳を立てることにしました。会話に混ざればいいじゃんと思われるかもしれませんが、同じ会社といえどあんまり親しくない人と話すのは相当な気力を要する、そもそもこんな会話に混ざったところで火傷する未来しか見えない、などの理由から参加を見送りました。我ながらこういう判断ができるところは立派だと思います!

 

聞き耳を立て始めたのは良かったのですが、先輩は相変わらず壊れたラジカセのように「合法ロリの時代が来る!」と繰り返すばかりですし、上司は上司で「でも年齢差のある夫婦だといろいろ価値観があわないところもあるんじゃないか?」とこのタイミングでする必要のない心配をする始末。そんなところを心配するなら突然「合法ロリ」なんていい出した部下の心配をしてあげるべきではないでしょうか。というか、こんなにも噛み合ってないのになぜ彼らは会話が成り立っているのか不思議でなりませんでした。

 

その後も話を聞いていたのですが、最初の「合法ロリの時代が来る!」発言以降、特に面白いこともなかったので僕は先輩がロリータコンプレックスという性癖と現代社会通念との板挟みにあった結果、このような主張を会社でぶち上げてしまったのだと結論づけて遊ぶことにしました。

 

 

 

ロリータコンプレックス

ーーー幼さにしか興奮できなくなってしまった俺はーーー

 

援助交際とかしてそうだよね~笑」

「めっちゃしてそう!笑」

合コンなんかで言われる俺の印象がこれだ。こんなことを言ってくる女にろくなやつなんていやしない。年を食った女はみんなこうだ。本人たちにすればおふざけのつもりかもしれないが、相手の気持ちなんか全く考えてもいない。自分たちがその場を楽しめたらそれでいい。そんな短絡的な女なんてこっちから願い下げだ。

 

その日の俺は学生時代の友人がセッティングしてくれた合コンに参加していた。

向こうは友人の職場の女性たちらしいが、ハッキリ言ってレベルが低いと言わざるをえなかった。世間一般にはいい人もいるのかもしれない。だが俺はどうしても彼女たちが自分を馬鹿にしているようにしか思えなかった。こっちを見てクスクス笑うだけならまだしも、目が合うと露骨に嫌そうな顔をする、俺が箸をつけた皿には手を付けない、そのくせ、友人がポツリと言ったくだらないギャグには馬鹿みたいに笑う。今日も俺に合う女はいないようだ。

 

きっと俺がおかしいのだとは分かっている。初対面で「援助交際してそう」なんて言われるのは異常以外のなにものでもない。でも俺ももう30を超えてしまった。今更この生き方を変えるなんてきっと無理なんだろう。こんな俺でも結婚したいという、人並みの欲はあるというのだから我ながら笑ってしまう。好きでこうなったわけじゃない。気がついたらもうこうなってしまってたんだ。

 

「今日はいい子いるかな…」

こんな日にはSNSを覗きに行ってしまう。そこには「サポ希望」「援助」「オフパコ」なんて言葉が溢れていた。なんてことはない。合コンで彼女たちが俺に抱いた印象はそのまま当たっていたわけだ。こんなことを初めてもう5年になる。最初はビクビクしながら罪悪感に苛まれたものだが、今ではもう何も感じなくなってしまった。それどころか今ではもう、幼い顔つきでしか興奮できなくなってしまった。慣れというのは恐ろしいものだ。

「これから会える人いませんか?JK1です」

ふとそんな書き込みが目に留まった。なんてことはない書き込みだが、なぜか心ひかれてしまうところもあり、この子に連絡を取ってみることにした。

「はじめまして。もしよろしければこのお会いしませんか?」

 

1時間後。

話はトントン拍子に進み、その子とは難波にある喫茶店で会うことになった。顔写真なんかは見てないから容姿はわからないが、その後のやり取りから生真面目な印象を受けた。すくなくとも合コンに来ていたような女どもよりは遥かにいいだろう。コーヒーを飲みながら待っていると、カランコロンと扉の鈴が鳴った。小柄な女の子が入ってくるのが見えた。あの子だろうか。

 

「はじめまして。〇〇さんですか?」

呼ばれた名前は間違いなく自分のものだったが、とっさに返事を返すことが出来なかった。

「あれ?〇〇さんじゃないですか?失礼しました…!」

その言葉で我に返る。

「ああ…!ごめんごめん!俺であってるよ」

「ああ…よかった。別人に話しかけちゃったかと思いましたよ」

「ほんとゴメンね。ちょっとぼーっとしてて…」

なんとかそう返したものの、未だに俺の心は一向に落ち着く気配を見せなかった。こうなってしまった理由は単純だ。情けないほど単純なものだ。

可愛かったのだ。まさかこんなに可愛い子が来るとは思っても見なかった。大抵こういうのに来る子というのはクラスでも中の上くらいまでの子で、本当に可愛い子が来ることは滅多にない。だというのに、今目の前にいる子はこのまま芸能界に連れて行っても即通用しそうなくらい可愛い子だった。

 

すぐにホテルに行くつもりだったが、このまま行ってもこちらが緊張してしまって楽しめないかもしれない。落ち着くためにも少し喫茶店で過ごしてから行くことにした。

「君もなにか飲む?」

「いえ、いいです。お金もないですし」

「それくらい奢るからいいよ。好きなの飲みなよ」

「それもなんだか悪いですし…。飲み終わるまで待ってますよ!」

そう言って対面に座る。ゆっくりと飲み物でも飲みながら距離を詰めようと考えていたのだが、一人だけ飲んでいるのはなんだか気まずい。結局、あまり会話が弾まないまま、さっさと飲み終えてホテルに向かうことになってしまった。

 

当初はどうなることかと思ったものだが、いざことを始めると普段どおり振る舞うことが出来た。それどころか、やはりかわいいは正義ということだろうか、いつもよりも遥かに興奮している自分に気付かされた。

終わってから少し話をした。こんな可愛い子がなぜこんなことをするようになったのか、どうしても気になってしまう。また会いたい気持ちもあり、嫌われないよう、説教臭くならないように気をつけて聞いてみたが、向こうもそういう質問にも慣れているらしく、なんでもないかのように答えてくれた。

 

3年前に両親が離婚し妹とともに母親に引き取られたこと、高校に入ったくらいから父親と連絡がつかなくなったこと、授業料を賄うために母親が仕事を増やしたこと、負担が大きくなりすぎて母親が体調を崩してしまったこと、母親の代わりに自分が稼がなくてはならなくなったこと、放課後のアルバイトだけではそれを賄うことが出来なかったこと。彼女はすべてを話してくれた。

それは陳腐といえば陳腐なものだったが、お話で聞くのと実際に目の当たりにするのとでは捉え方がやはり異なる。もちろん、この話は彼女が同情を引くためについた嘘かもしれない。だが、妹との2ショット写真を見せてくれながら浮かべていた悲しげな彼女の笑顔を見ていると、どうしてもすべてが嘘だとは思えなかった。気がつけば一筋の涙が頬を伝っていた。

 

「ごめんなさい…。こんな話聞かせちゃって」

「いやいや、俺が聞いたんだし。むしろ話させちゃってごめんね」

「そんな…。聞いてもらえて楽になりました。泣いてくれたのはあなたが初めてです」

この涙はただ彼女のことを思って流したものではない。今まで援助交際という罪を重ねてきた自分や、妹がいると聞いてあわよくば3Pとか出来るんじゃないかという卑しさを浮かべてしまった自分があまりにも情けなくなってしまったことも含んだ涙だった。

だが、彼女のことを思ったのもまた事実だった。彼女だけではない、うら若き乙女が援助交際という道へ落ちなければならなくなってしまう社会構造そのものをなんとかしなければならないと思った。

 

そうして俺は即座に行動を開始した。もちろん一介の会社員にすぎない自分にできることは限られている。でも、実体験で苦しんでいる人がいると知ってしまった以上、じっとしていることなんて出来やしなかった。

 

翌週には家出少年・少女を救う活動をしているボランティア団体に所属し経験を積みつつ、自らも半年後には未成年者の相談所となるべくNPOを設立。この活動を通して現在の妻と出会う。童顔の彼女は彼にとってベストと言えるパートナーであり、彼女との出会いをきっかけに彼の活動はますます熱心なものとなっていく。

2年後には市会議員に立候補し、見事当選。その後は、青少年の健全な育成に主眼を置いたマニフェストを武器に府知事にまで昇りつめ、50歳時に国会議員に転身、文部科学大臣などを経て65歳にして内閣総理大臣に任命される。教育に力を入れる傍ら、ロリータコンプレックスに苦しむ多くの男性を救おうと、未成年者に対する劣情を抱いてしまったものに対する社会保障を充実させる法案(通称:合法ロリ法)は後世においても評価され、今の日本の教育の礎となった。後に彼の任期は「合法ロリ時代」と呼ばれることになる。