インターネットのけもの

全て妄想です。

頑張ったアルアイン

2019年3月31日。

2018年度が終わり、翌日には新元号が発表されるという、どこか浮足立ったこの日に、僕は歓喜の中にいました。

 

我が家では3月31日といえば、母の誕生日のことを指すのですが、僕はそんなことは全く関係なく、実家のある大阪から約500km離れた東京、高田馬場にて、前日に花見を満喫したメンバーと共に麻雀を打っていました。朝6:30からという少し頭の軸のぶれたとしか思えないような時間設定で始まった麻雀は、前日に朝6時から夜11時までぶっ通しで参加し続けた花見による影響もあり、消耗戦の様相を呈していましたように思うのですが、今にして思えばそれほど消耗していたのは僕だけだったのかもしれません。なぜなら賢明な他のメンバーは早朝からの麻雀に備えてさっさと花見を切り上げていたからです。二次会に遅くまで参加していたアホは僕だけでした。

酒も抜けきらないままに参加した麻雀では、当然のように頭が回るはずもなく、面白いように負けていたのですが、よく考えると負けているのはいつものことだったので、酒はあまり関係なかったのかもしれません。しかし、負け続けているからとはいえ、逃げ出すわけにはいきませんでした。なぜならこの日は、麻雀だけでなくもう一つ大切なイベントが控えていたからです。

 

それが同日3月31日に阪神競馬場にて開催されていた、「大阪杯(G1)」です。

昨年は全部のG1を巡るという、とても素面ではやっていけないような荒行を、預金残高を順調に減らしながら行っていた僕でしたが、流石に2年連続でやるのは本格的な馬鹿であると気がついてしまったため、今年はこのG1というイベントと適度な距離感を持って接しようと決めていたのでした。まあその結果が、雀荘のTVで卓を囲みながら中継を見るというものであったのは我ながらどうしようもないような気がしますが、一人で競馬場まで赴いた挙げ句、シーフに金をかっさらわれていくのはもう勘弁願いたいものです(去年の大阪杯では7万円が失われました!)。

今年の大阪杯は過去にないほど豪華なメンバーが集い、戦前からやれどの馬が展開を握るだとか、新進気鋭の4歳勢が強いんじゃないか、いや5歳勢も意地を見せるだろうと、喧々諤々の議論がかわされていました。そして、その豪華なメンバーの中には、僕が何度も日記に登場させるハメとなったあのアルアインの姿もありました。

今まではそれなりの評価を受け続けていたアルアインでしたが、前走の結果がイマイチであったこと、どうやら新進気鋭の4歳勢が相当に強そうであるといった事情から、今回はかなり評価が低くなっており、全14頭中9番人気という舐められっぷりでした。今までの僕であれば、「9番人気!?世界最強の一角を担うアルアインが9番人気なんて世の中の愚民どもはなんて馬鹿なんだ!!全財産ぶち込み一択」となっていたのでしょうが、ここ最近のだらしなさは僕も評価を下げざるを得ず、1着は難しいが、2,3着ならまああるかなあといった評価に落ち着かざるをえませんでした。

ただ、じゃあ他にどの馬が勝つんだよと言われるとそれもまた難しく、結局はアルアインがいい勝負をするんじゃないだろうかと結論になっていたのもまた事実です。そのことを麻雀を打っていたメンバーに伝えてみると、これがまた散々なもので、「あんな駄馬きやしねえよ」だの「アルアイン以外を買いました」だの、まるでアルアインを買うものは人に非ずといった風潮です。それでも僕は、地動説を唱え続けたガリレオ・ガリレイのように、アルアインの素晴らしさを説いたのですが、教会はこれを認めようとはしてくれませんでした。

 

そしてレースが始まります。

麻雀の方はというと散々な負けっぷりでしたが、そんなことはもう関係ありません。淀み無く打ち続けられていた麻雀牌を掴む手を止め、皆がモニターに集中します。

15時40分、アルアインが真っ先にゲートに収まり、各馬が続きます。大外14番のダンビュライトが収まり、ついに戦いの火蓋が切って落とされました。

先に言ってしまうと、レース内容はアルアインに関するところしか覚えていません。なぜならアルアインをずっと目で追っていたからです。

スムーズなスタートを決めたアルアインは、そのまま前目の好位置につけると、逃げたエポカドーロ、キセキの後ろに控え、コースの内側をロス無く進みます。最後の直線に入っても、すぐに動き出すことはせず、エポカドーロが下がってきたタイミングで、ぐっと内に切り込み、先頭に躍り出ました。そしてそのまま先頭で粘り込みを図ります。

この時点で僕の興奮は最高潮に達していました。ずっと「よっしゃ!よっしゃ!」と祭りの掛け声のように叫んでいたのを覚えています。

先頭に立ったアルアインでしたが、後ろからは不気味にキセキとワグネリアンが徐々に迫ってきます。どちらも強い馬です。抜け出したアルアインとの距離は1馬身もありません。あと少し、あと少しだけ頑張ってくれ!アルアイン!迫るキセキとワグネリアン

 

しかし、しかし!アルアインだ!迎えたゴール、先頭で風を切ったのはアルアインでした!評判の高かった4歳勢も、今まで負けこしていた5歳勢も、全てを抑え込んでアルアインが1着でゴールしたのです!それは2017年の皐月賞以来、約2年ぶりのことでした。

感激のあまり、咆哮をあげたのは言うまでもありません。

 

と、そのときです。

「すみません。他のお客さんもいらっしゃるんで静かにしてもらえると…」

どうやら僕があまりにもうるさすぎたらしく、雀荘の店員から注意を受けてしまったのでした。母親の誕生日に朝から酒の抜けていない状態で麻雀を打つだけでは飽き足らず、競馬中継を見ながら叫びすぎて店員に注意されるなんて、おおよそ考えられる限りのクズの要素ばかりだけのような気がしますが、その時の僕は嬉しさのあまり、何とも思いませんでした。

店員に謝罪を入れ、何事もなかったかのように麻雀に戻りましたが、僕の顔からニヤケが消えることはありませんでした。振り込んでもニヤケていたのでさぞかし不気味だったろうと思います。

ですが、ですがこれほど喜んでしまうのも無理ないことじゃないですか!?一昨年の秋には30万円をアルアインで失いました。その後も合わせるとゆうに50万円は持っていかれていると思います。それだけ負けても、ときには馬鹿にされながらも、それでも、それでも好きだった馬が!ハイレベルと言われた一線で2年ぶりの勝利をあげる。これに勝る喜びが果たしてあるのでしょうか!

 

レース後にはアルアインを買っていなかった哀れな人達から「こんな駄馬が勝つなんて糞レース」、「アルアイン降着じゃねえの?」などと、心無い言葉を投げかけられもしましたが、僕の心は満たされていました。地動説を認めないと言うならそれで構いません。アルアインの強さは僕だけが分かっていればいい。

 

ありがとう!アルアイン

心だけでなく、財布も少し満たされた僕は、アルアインからのプレゼントだとばかりに、美味しい食事をすませて東京をあとにしたのでした。