インターネットのけもの

全て妄想です。

待ちわびたもの

先週、約6年間待ちわびていたテキストをようやく読むことが出来ました。

小学生の頃に我が家にインターネットがやってきてからというものの、僕はインターネットに夢中になっていたのですが、その中でも特にテキストサイトというものに僕は魅せられました。まあそのおかげで大変に暗い学生生活を送ることになってしまったのですが、よく考えてみると他に好きなものといえば、カードゲームにアニメ・漫画と、引きこもりにしかなれなさそうな趣味ばかりだったので、テキストサイトを知らないままでもやっぱり暗い学生生活だったかも知れません。

そんな中でも特にハマっていたサイトがいくつかあったのですが、その殆どは年月の経過とともに更新がまばらになり、ついにはサイト自体が消えてしまうということも珍しくありませんでした。当時の僕のハマりっぷりといったら正直、異常とも言えるほどで、閉鎖されたサイトのログも当然のようにローカルに保存していたので問題はなかったのですが、それでもやはりアクセスしていたページが閉鎖されているとやっぱり悲しくなったものです。

そんなサイトの管理人たちは、今ではライターと呼ばれるような記事を書く人になったり、細々とtwitterなんかでつぶやくだけになったり、あるいは完全に姿を消してしまったりしていました。今回の日記の主になっているのも一度は完全に姿を消してしまっていた人です。

 

僕が「断崖絶壁」というサイトを知ったのはたしか中学生の頃でした。「断崖絶壁」は「必殺!年賀状マニア」こと「ねんまに」氏が日記と称して現実と妄想が入り乱れた狂気のテキストを紡ぎ出すというとてもハイセンスなサイトで、残念ながら今はもう閉鎖されてしまったのですが、僕が大好きなサイトの一つでした。記憶している限り最後に更新された日記が「38歳無職が母親に連れられて風俗に行くも、何故か嬢とではなく母親とセックスをする」であるということからもどうしようもなさが伺えます。ちなみに僕が好きな日記は満栗返士射太郎君(まんぐりがえし・しゃたろうくん)なる人物が世の中の不条理に対して「関係ありません!!!!!!!!」と果敢にキレまくる「射太郎君シリーズ」です。

ねんまに氏は並行してブログ(「ありがとうお母さん。淫売でいてくれて本当にありがとう」ねんまに氏が読んだ本やプレイしたゲームの感想を紡ぐブログ)も運営されており、そちらはサイトの閉鎖後も残っていたのですが、サイト閉鎖後の2013年4月24日に1度更新があっただけで、実質閉鎖状態でした。

喜ばしいことなのか恐ろしいことなのかはわかりませんが、どうやらねんまに氏の熱心なファンは僕だけではなかったらしく、氏のブログには最後の更新から数年が経っているにもかかわらず、ぽつりぽつりとコメントだけが残されていくという異様な状態が続いておりました。そんなコメントを見るたびに「ああ、僕以外にも時計が壊れてしまった人はいるものだなあ」と妙な高揚感があったのをよく覚えています。

しかしながら、3年も経つ頃にはその頻度もかなり落ち込み、年に5,6件のコメントが付くだけとなっておりました。今にして思えば、それでも十分に異様な状況だと思うのですが、当時の僕はコンテンツの終焉を感じ取り、なんだか寂しいものだなと感じ入っていたのを覚えています。氏のtwitterアカウントらしきものを見つけたりもしたのですが、2013年からつぶやきは途絶えており、どうやら使われていないようでした。消えゆく思い出をなんとか繋ぎ止めようと、テキストサイトを管理していた人たちにねんまに氏の行方を尋ねたこともありましたが、結果は芳しくないものでした。

 

こうやってテキストサイトは消えていくんだな…、そんな思いを抱いたまま迎えた2018年4月21日。最後の更新から約5年の時を経て壊れた時計が動き出したのです。

この日、僕は東京で開催されていた「webメディアびっくりセール」というイベントに足を運んでいました。テキストサイトで活躍していた人たちも多数参加する、僕の中のインターネットを煮詰めたようなイベントです。そんな日に事態が動き出すなんて、なんだか運命めいたものを感じます。

一通り目当てのブースを見て回り、一息ついたときのことでした。操作していたスマートフォンtwitterアプリから一件の通知が表示されたのです。

レイバンのサングラスファッション特価特典として、2499円!」

なんだ…スパムか…。

そう思い、無視を決め込もうと思っていたのですが、その送り主を見たとき、僕の指はおもわずその通知をタップしてしまっていました。

「@nennmani」

残念なことに、このときの驚きっぷりを文章で表現する方法を僕は知りません。スパムとはいえ、完全に行方が掴めないと思っていた人のアカウントから連絡があったのです。ただ、この時点で喜びすぎるのは早計です。スパムということは本人が操作して送っていているわけでないですし、そもそもアカウントの持ち主が本人かどうか定かではないのですから。僕は一縷の望みを込めてスパムに返信をしました。

そしてその夜、とうとう待ちわびた人物とコンタクトを取ることが出来たのです。

「生きていているのが分かって本当に良かった…」

僕がまず思ったことです。そんな大げさな…、と思われるかも知れませんが、これまでの日記の内容や消え方を見ていると、そうなっていても不思議はないと思っていたからです。それが元気にしているとわかったのですから、こんなに嬉しいことはありません。ただ惜しむらくは、どうやらもうテキストは書かれていないということでした。

 

しかし、それから3ヶ月後、僕にとっては歓喜すべきニュースが飛び込んできました。

なんと、ねんまに氏が新しくテキストを書かれたというのです。生きているのがわかっただけでなく、新作が読める…。しかも、そのテキストを書くきっかけというのが、僕がとあるライターの方にねんまに氏と連絡が取れたと伝えたところから生まれたと聞いて、僕の喜びはとどまるところを知りませんでした。

残念ながら、すぐに読めると思っていたテキストはどうやらどこかの媒体に載せることになるらしく、その掲載が決まるまではしばらく待つことになるということでした。待つとは言っても、1、2ヶ月程度だろうと踏んでいたのですが、色んな媒体から掲載拒否を食らっているとかなんとかで、読むまでに至りません。しかし、待たされるたびに「掲載拒否されるなんて一体どんな狂った文章が出てくるんだ…」とワクワクすることしきりでした。

 

そしてテキストを書いたとの知らせから半年後の2019年3月21日。半年間、いや6年間待ちわびていたテキストがとうとう公開されました。公開されたテキストは約4万7千文字という長編で、僕は6年間のことを振り返りながら、噛みしめるように楽しんだのでした。

一向に更新されないブログを覗きに行き、コメントを書き記し、ローカルに保存していたログを読みながら、もう二度と出会うことはないだろうと思っていた文章。それが今、目の前に…。

こんな経験はそう出来るものでは無いでしょう。今日の日記はただ単に、もう見れないと思っていたテキストを読むことが出来て嬉しいなあと、その一言で済むことなのですが、まさかのねんまに氏本人から感謝の言葉を頂戴し、歓喜の絶頂にいるなかで思わず書いてしまいました。

 

まあなんというか、これからもいっぱい面白い文章が読みたい。