インターネットのけもの

全て妄想です。

「ロリータ」感想

普段は漫画ばかり、時には小説と言い張りながらライトノベルばかり読んでいる僕ではありますが、たまには一般文芸なんかも読んだりするわけです。一般文芸とライトノベルの違いって何だよって思われるようなめんどくさいタイプの方もおられるかもしれませんが、まあそこは皆さん大人ですから分かってもらえると信じています。ポルノと一緒ですよ、見ればわかるってやつですね。

世の中には本というものがそれこそ一生かかっても読みきれないほど溢れているわけで、こんなにも溢れている本の中から「気になったもの」という条件をつけて抜き出してみた一部であっても途方もない量になってしまいます。軽い気持ちで集めるには時間もお金もかかってしまうので、僕はよく図書館を利用しています。

図書館はいいですよ。なんてったってタダで本が読み放題なうえ、雑誌のバックナンバーから絶版本まで、大抵のものが揃っているわけですからね。特に国会図書館の蔵書量は圧巻の一言で、納本制度のおかげもあって日本で出版された書籍の大部分を読むことが出来ます。絶版でプレミアが付いている本なんかを読むには最適な場所と言えるでしょう。

 

このままでは図書館を賛美しただけで日記が終わってしまいそうなことに気がついたので本来書こうとした話題に無理やり戻しますが、つまり僕が伝えたかったのは、借りてきた本の感想を書いて見るから暇な時にでもその本を読んでくれ、お互いに感想を語り合おう、ということです。

普段は図書館で目当ての本を読み切り、借りていくということはしないのですが、今回は時間がなかったこともあり、初めて本を借りて帰りました。結果的には、借りていったのは大正解で、というのも今回借りた2冊のうち、1冊は1時間程度で読めたのですが、もう1冊のほうは読み終わるのに10時間弱かかったからです。

 

1時間程度で読めた本は皆川正三の「馬券師」という見紛う事なき糞本で、読み終わった瞬間に「は?」と素で出てしまうほどに意味不明なオチでした。馬券がテーマの小説だから競馬場で読もう!と単純すぎる思考のもと、実際に競馬場に持っていき、おっさんたちの咆哮をBGMに臨場感あふれる中で読んでいたので、その点では楽しめたのですが、いかんせん内容が悪すぎてなんとも微妙な気持ちになったものです。

もしかして自分の読解力が低すぎて、隠された真実のようなものがあるのでは?と思い、読み終わった直後にインターネット検索という禁忌に手を出したのですが、そもそも読者が絶望的に少ないらしく、一件たりとも感想・レビューを見つけることが出来ませんでした。

 

そしてココからが本題なのですが、10時間弱かかったもう1冊というのが、ウラジーミル・ナボコフの「ロリータ」です。ロリータ・コンプレックスの語源になっていることで有名な小説ですね。知名度が結構高い小説にもかかわらず、ストーリーすらよく分かっていなかったのでずっと気にはなっていました。

内容としては、主人公である中年の文学者ハンバートの手記という形をとっています。少年の頃の初恋の相手であるアナベルの面影を、12歳のドロレス・ヘイズ(ロリータ)に感じ取ったハンバートは、彼女に近づくためにその母親シャーロットと結婚するが、シャーロットは事故で死んでしまう。シャーロットの死後、ロリータを連れて数年に渡りアメリカ中を巡りながら、ロリータを理想の恋人としようとするも、その試みはうまくいかない。身寄りのないロリータは、ハンバートと一緒にいるしかなかったはずだったが、ある日ハンバートの前から姿を消した。3年後、ロリータから手紙が届き、失踪の真実を知ったハンバートは罪を犯す。

読む人によって何を主題と判断するかで捉え方も変わってきそうではありましたが、大筋ではこんな感じです。端折ってしまいましたが、細々としたエピソードが多く、それらが伏線となって、また別のエピソードと関係することもあります。ロリータの失踪の真実を考えてみるとミステリとしても読めますし、全米を旅行している最中はロードノベルのように楽しむことも出来るでしょう。

作者のナボコフってのがまたとんでもない人で、ロシア人でありながら英語で「ロリータ」を書いており、その文体がまた強烈に光っている。読んだのは日本語訳されたものなので、翻訳者によって色は多少変わっているかもしれませんが、文章に隠された遊び心や仕掛け、繊細な描写に濃厚な比喩と、文章を満足に楽しむことが出来ました。ただ、他の文学作品のパロディがやや多く、教養のない僕にはそのあたりは楽しむことが出来ませんでした。もっと色んな本に目を通してから再読すると、より一層楽しめることかと思います。

 

この作品は二部構成になっているのですが、第一部を途中まで読んだ段階では、結構面白い、笑えるところのある作品なんだなという印象を持っていました。この段階ではハンバートの葛藤や苦しみはまだほとんど無く、あったとしてもそこまで執着していないか、ロリータに対する気持ちのほうが強く感じられたからです。このロリータに対する気持ちはどんどん歯止めが効かなくなっていき、シャーロットの死後に一線を超えてしまいます。このときまではロリータの方もまだまんざらではなかったように思えます。

第二部でアメリカ中を自動車で回りだしてからは、ハンバートとリータの気持ちがどんどんと乖離していき、ハンバートの苦しみのほうがより伝わってくるようになります。母親という邪魔者が消えてロリータとの理想の生活が始まったハンバートでしたが、旅が進むに連れ、ロリータの気持ちは離れていき、ついには姿を消してしまいます。ハンバートは夢中になってロリータを探しますが、全く見つかりません。半ば諦めながら新しい生活を始めていたハンバートでしたが、ロリータから手紙がくるとその生活もあっさりと捨て、ロリータのために動き出します。

ハンバートは疑いようがなく少女性愛者であり、自分のような異性を引きつける少女をニンフェットと呼び、ロリータ以外にも結構目移りしていましたが、築いていた生活をあっさりと捨てられることからも、最も焦がれた少女はやはりロリータであり、それはもうニンフェットではなくなってしまったロリータに対しても変わらぬ気持ちを持っていたことからも明らかだと思います。

 

ハンバートからロリータに対する気持ちは本物だったわけですが、その一方でロリータからハンバートに対する気持ちはどんどんと離れていきます。旅を始めた頃まではまだ気持ちは近いところにあったように思えますが(それでも仕方なくってところが大きいと思う)、徐々にハンバートは邪魔な保護者になってしまい、その嫌いなハンバートに頼るしか無いという状況が、よりハンバートへの気持ちをマイナスにしていったのでしょう。

ですが、これはハンバート側の落ち度でしょう。旅の序盤こそはロリータの機嫌を取るような行動も見受けられましたが、徐々にロリータに対し自分の理想を押し付けていき、ついには行動を制限するようになってしまいます。さらにはその制限を解いてほしければ自分のお願いを聞くようにと、ロリータからスレば理不尽極まりない交渉を持ち出す始末。これでは、ロリータの気持ちが離れていくのも無理はありません。

多分、ハンバートはロリータが自分のものになったと錯覚してしまったがゆえに、調子に乗ったような振る舞いをしてしまったのだと思います。ハンバートはロリータが理想の恋人になる生活がずっと続くと一方的に思い込んでいて、ロリータの気持ちを考えられなかった。だからロリータは姿を消し、ハンバートは自分と向き合う機会を得て、ロリータからの手紙が届いてから、ロリータこそが自分の人生に必要だったと改めて気がついたのでしょう。残念ながらもう遅かったわけですが。

 

もうロリータが自分のものにならないと分かってしまったハンバートは最後に罪を犯すわけですが(ハンバート自身は罪だと思っていないようですが)、なぜあのようなことをしたのか、嫉妬心からくるものなのか、贖罪のためなのか、はたまた別の理由か、色んな理由が考えられますが、なんだかどれも違うような気がします。ですが、僕がハンバートと同じ立場になったと考えてみると、やはり同じ判断を下すだろうなという思いはあります。うまく説明できないのですが、そうしなければならない、ような。

というか、全体を通してハンバートの気持ちが分かるところが多く、めちゃくちゃハンバートに感情移入して読んでしまいました。ハンバートの気持ちが分かると言うと、なんだかすげーヤバいやつみたいな印象になってしまうのですが、そんなことはないでしょう。ですが落ち着いてパラパラと読み直してみると、ハンバートはやっぱりおかしなやつでした。ニンフェットを愛撫するのに比肩しうる幸福はこの地球上に存在しないとか言い切ってますしね、あとロリータのクラスの女子の名前全員覚えてるし。こんなやつの気持ちがちょっとでも分かる人ってよくないですよね。

いや違うんですよ。決して僕がロリータ・コンプレックスだとかそういう話ではなく、そもそもロリコン和製英語で、幼女・少女への性的嗜好を指しているわけですが、「ロリータ」で語られているロリータはニンフェットであり、ニンフェットとはすなわち、20も30も年の離れた異性を惹きつける性的魅力を発揮する乙女を指す言葉なので、一見すると男性から女性への気持ちを表すロリコンと同義と思われるかもしれませんが、実際には女性から男性に魅力を発揮しているニンフェットは異義なのであって、それはロリコンは主に男性を示す言葉であるのに対し、ニンフェットはそのものズバリ女性を指す言葉であるので、やはりハンバートに理解を示すイコール、ロリコンとはならないわけで、そもそも僕はハンバートからあふれるロリータ、ニンフェットへの愛情を理解したからこそ、感情移入し共感したので!!長く語ってしまった。これでは勘違いされてしまいますね。

 

この作品は文章に仕掛けが多く、一度読んだだけでは楽しみ切ることは難しいと思います。何度か読むうちにきっと新たな魅力に気が付き、また違った感想を持つようになるような気がします。今回はハンバート目線で読んでしまったので、辛くて悲しい物語として心にキツくくるものがあったのですが、次回はここで既にこのキャラクターが出てたのか!と伏線を探しながら純粋に文章を楽しむような読み方になるかもしれません。

 

ハンバートの手記の最後は「そしてこれこそ、おまえと私がともにしうる、唯一の永遠の命なのだ、我がロリータ」で締めくくられています。これ、とはハンバートとロリータの一連の行動を手記という形で出版し、後世に残し続ける選択のことでしょう。メタ的な視点に立ってみると、ナボコフの書いた「ロリータ」は当初は刊行を断られ、出版後もポルノまがいとの評価を受けたものの、現在ではベストセラーとなって全世界で読まれています。熱心なファンも多く、きっとこれからも読まれ続けることでしょう。ハンバートの願いは見事に叶ったのです。

 

 

なんか題材があれだからきれいな文章にして気持ち悪くならないようにしようと思ってたのに、ロリータって言葉を書きすぎて変な文章になってしまった。あと内容云々よりも僕の文章がそもそも気持ち悪かったので気をつけても仕方なかった。悲しいね。