インターネットのけもの

全て妄想です。

やめようソーシャルゲーム

聡明なる僕は去年の暮れに「ソシャゲなんてものは時間とお金を際限なく奪っていく悪魔の遊戯でしかない」と気付いたので、今後の人生のことを思うとどう考えてもこんなものはとっとと止めてしまった方がいいという結論を導き出し、即座にすべてのゲームをアンインストール、以って日常生活からソシャゲという悪魔を駆逐したはずなのですが、今現在ふと手元のスマートフォンを覗いてみると、そのホーム画面には威風堂々とソシャゲのアイコンが佇んでいたため、僕はこの悪魔の生命力の高さに驚くことしか出来ませんでした。

ですがそれ以上に驚いたのは、僕よりも先にソシャゲ地獄から脱出し、その後はソシャゲをやってる僕を散々馬鹿にしてきた友人にソシャゲに復帰してしまった旨を伝えると、さも当然のようにマルチプレイのお誘いを受けたことでした。どうやら友人の方もこの呪縛からは逃れきれなかったようで、僕を馬鹿にしながらも普通にソシャゲを再開していたそうです。自身も続けているのに相手だけは否定するという友人の精神構造はもう完全にどうかしてしまっていると思いますが、まあでも僕も再開してしまっているので特に何も言えませんでした。そこには、あまり強く言ってしまうと一緒にゲームをする仲間が減ってしまうのではないかという何とも消極的な、情けない懸念もあったからです。

 

そんなわけで昨晩は勤務時間終了後、日中の勤務態度からは想像もつかないような俊敏さでデスクを離れ退社し、帰路の途中で友人と合流しゲームに興じるという、あまり花金と呼ぶには相応しいと思えないようなことをするハメになってしまったのでした。こういうことの積み重ねがきっと会社内での立ち位置などを決定していくことになるのでしょう。そう考えた場合、このような行動が上司からどう思われるのか、その細かなところまでは末端である僕にはちょっとわかりませんが、でもどうやら世間一般的に考えてみると、これはちょっと…あまり、よろしくない…のかな?まあでも会社に残っていたところで、楽しいことなんてビタイチあるはずがないのでどうでもいいことですね。むしろこういうところから「あいつは時間を守れる男だな…」的な出来るオトコ評価を受けることもあるかもしれませんし。

周囲の残業をものともせずゲームをするために友人と合流した僕は近くのファミレスへと向かいます。ファミレスでは台風の影響でものが入ってこないとかで、サバの味噌煮とデザートが数点しか注文できないというハプニングにも襲われてしまい、あわやゲームどころではないかとも思われたのですが、普通に考えて何食ってもゲームには関係がないと気がついたので適当に注文を決め、早速ゲーム開始です。ですが開始5秒後には攻略する予定だったダンジョンに必要なモンスターを友人が持っていないということが判明したため、即座にゲームは中断、手際の悪さにブチ切れた僕は友人のスマートフォンの画面をバキバキに粉砕してしまったのでした。

ですがスマートフォンには保護シートが綺麗に貼られていたので、とてもバキバキには出来ないと気づいた僕たちは、何食わぬ顔でまずは必要なモンスターを育てることに決めたのでした。育成が面倒なタイプのモンスターであったため、準備には時間がかかってしまいましたが、それでも二人で協力して準備をするってのはなかなか楽しいものです。こうやって協力して一つの目標に向かって進む感覚が味わえるところはソシャゲも悪くないのかもしれませんね。

なんとかお互い必要なモンスターも用意でき、もともとの目標であったダンジョンに挑みます。僕たちは二人とも一時的にゲームを止める前までは、当時最難関と呼ばれていたダンジョンをクリアしていたくらいにはゲームをやりこんでいたのですが、今日挑むダンジョンは止めていた期間中に実装された更に難易度の高いダンジョンだということで、かなりの困難が予想されます。予め攻略情報を見ることはしたくないという見解の一致もあり、無知のまま挑むのですからなおさらです(何があるかわからないので高い汎用性をもつ便利なモンスターを用意していた)。

 

いざダンジョンに挑みます。思えば友人と一緒にダンジョンを攻略しようとするのも約1年ぶりです。考えうる最高のパーティも組んだ。どの敵が出てきたらどう動くか対処も決めた。たとえ未知の敵が現れてもこの二人ならきっと攻略できるはず。ソシャゲは無駄だと思った時期もあったけど、こうやって友人と一緒にワクワクを感じさせてくれるものを一方的に悪と決めつけるのもよくなかったかもな…。

最初の敵が現れます。どんなゲームもそうだとは思いますが、大抵最初の敵なんかは弱いものです。ここは僕があっさりとクリア。このゲームは交互に敵と戦う形式になっていますので、次は友人の番です。さっきと大差ない雑魚です。すこし操作ミスがありましたが無難にクリア。いい調子です。

疑問を感じたのはダンジョンも中盤に差し掛かってきたあたりでした。僕が一撃で敵を粉砕していくのに対し、友人は操作ミスが多く、少しずつ取りこぼしが出てきました。このときは久々でカンの戻ってないところもあるのだろうかと思っていましたが、終盤に差し掛かる辺りで敵がこちらの操作時間を減らす攻撃をしてきたあたりで、疑問は確信に変わりました。

友人が使っていたキャラクターは限られた時間内にコンボ攻撃を重ねることで威力を高めるという性質だったのですが、操作時間を減らされてからというものの、全くと言っていいほどコンボを成立させることができなくなり、まともにダメージを与えることが出来なくなってしまったのです。1年前はこうじゃありませんでした。多少操作時間を減らされたところでガンガン敵を滅ぼしていった友人の姿が、今はもう見る影もありません。

我慢できなくなった僕は問いかけます。

「お前、めっちゃ下手くそになってないか?」

その問いに友人は答えず、ただ下卑た笑みを浮かべるばかりでした。僕はなんだかそれをとても悲しいものだと思いました。

それでもだましだまし最後の敵まではたどり着いたのですが、最後はあっけなく全滅してしまいました。その後、他のダンジョンにも挑み、いくつかはクリアできたのですが、そこも僕がほとんどの敵を倒すばかりで、友人は何とかついてきたという感じです。たった一年で僕たちの対等な関係がこんな介護みたいなものになってしまうなんて、一体誰が予想できたというのでしょう。

 

そのうちお互いゲームする気力も尽きたのでファミレスを後にすると、時計の針は4時を指していました。4時…?僕の仕事は定時が5時半ですので、職場を後にしてから10時間以上経っていることになります。丸々ゲームに費やしたわけではないにせよ、最低でも8時間は費やしたことでしょう。8時間以上かけても目当てのダンジョンがクリア出来なかった…?今日集まった意味って一体…?唐突に自分たちが時間をドブに捨てまくっていることに気がついたため、さっきまで考えてた「友人がゲーム下手くそになっていて悲しい」というどうでもいい感情は一瞬で吹き飛び、25歳にもなってこんなソシャゲごときで一喜一憂、あまつさえゲームが下手くそになった友人を見下そうとした自分がとても恥ずかしく思いました。というか、普通に考えてゲームが下手くそになってたところで日常生活に何の問題も生じさせないですしね。むしろこの歳でどんどん上手くなっている方が問題あるんじゃないでしょうか。

もうソシャゲはやめよう。こんな事してても何もならない…。そう思ったとき友人がポツリとつぶやきました。

「ソシャゲってさあ、無駄だけど無駄じゃないんだよな」

それを聞いた僕は、「ああもう完全に友人は壊れてしまった」と当然のように思ったわけですが、どうやら友人は「クリアとか出来なくてもこうやって遊ぶだけで楽しいじゃないか」というようなことが言いたかったみたいです。散々足を引っ張ってたお前が言うなよって感じですが、ぶっちゃけ眠すぎてもうどうでも良くなっていた僕は「そうだな」とだけ返しておきました。

 

その後、腹が減りすぎていた僕たちは松屋に寄って帰りました。ファミレスから出たばかりなのに腹が減っているというのもおかしな話ですが、ファミレスにはサバの味噌煮くらいしかまともな定食が無かったので仕方ありません。松屋では「茄子とネギの香味醤油ハンバーグ定食」を食したのですが、これは滅茶苦茶美味しいのでおすすめです。どうでもいい情報でしたね。

松屋から出るとびっくりするくらいの大雨が降っていたので僕は唖然とするしかありませんでした。なんだかもう色々と疲れてしまった僕は濡れながらも家にたどり着き、とっとと寝てしまうことにしました。このとき、時計は6時を指していました。おかげさまで今日は15時という駄目人間のお手本のような時間に目を覚ますハメになり、僕は今日という日を無駄に過ごすことを予感してしまったのでした。

 

案の定、もう日付も変わったというのに起きてからダラダラしてた記憶しかありません。これはもうソシャゲの悪弊といって間違いないことでしょう。やっぱりソシャゲなんてするもんじゃないですね。(嬉々としてゲームを起動しながら)