インターネットのけもの

全て妄想です。

げんしけんと僕

僕が「げんしけん」に出会ったのは小学生の時でした。

 

どのクラスにでもいたであろう「兄貴のエロ本をちょろまかしてくる奴」の家に遊びに行くと、普段はゲーム画面(それも銃で人を撃つようなろくでもない類のゲームの)が映っているはずのブラウン管に、何故かアニメが映し出されていたのです。

なんでそんなものを皆で見ているのかはわかりませんでしたが、驚かされたのはその内容でした。大学生のオタク活動に焦点を当てたこの作品は、ちょうどこの頃深夜アニメの存在を知った僕からしても全くの未知の世界であり、大学生にもなれば漫画もゲームもそこまでしないのではないかとなんとなく思っていた僕は大変な衝撃を受けました。

その後、誰かが単行本(これも兄貴の本棚からパクってきたやつ)を持ってくるようになり、クラスの一部で「げんしけん」にハマる男子が続出しました。

当時の僕がこの作品を本当に楽しめていたかどうかは定かではありませんが、この時にハマっていた別の漫画が「スクールランブル」とかいう、この頃のオタクがどうしようもなく熱狂していた作品だったあたり、結構楽しめていたのかもしれません。高校生になれば「スクールランブル」のような、大学生になれば「げんしけん」のような生活が待っているのだと、ぼんやりと夢見ていたような気もします。

その後、中学、高校と進んでいく中で、自分でも単行本を集めるようになり、一度は終わったはずの「げんしけん」が、二代目として連載が再開されるという嬉しいハプニングもあったりしながら、高校でも大学でも特にイベントは発生せず、あんな生活は待ってやしないのだと悲しい現実に気付かされていきました。

 

正直に言ってしまうと、二代目は僕が求めていた「げんしけん」とは少し毛色が違っていましたので、途中から読まなくなってしまっていたのですが、先日いつの間にやら、その二代目も完結していたことを知り、「小学生の時から追ってた作品の終わりを見届けなければ」と突如なんだか間違った使命感に襲われた僕は、その手で通販サイトを開き、読み残していた単行本を一気に購入する運びとなりました。

結果から言うと、すごくもやもやしたし、あまり思い出したくないことを思い出すハメになってしまったのですが、空白期間はあれど10年以上読んでいた作品に対して、思うところもありましたので日記に認めようと思います。キャラクターの名前がガンガン出てきますが、こんな気持ち悪い日記を読むような人は当然「げんしけん」を読んでいると思いますので、特に説明はしません。いらない前置きが長くなりましたが、ここは僕の日記帳なので暖かく見守ってください・・・。

 

読み終えて改めて気付かされたのは、僕の斑目に対する愛とも言うべき憧れでした。こんな書き方をすると、まるでホモの人みたいに思われるかもしれませんが、別にそういうわけじゃありません。僕は好きなものに一心不乱に向かっていく斑目晴信に確かに憧れていたのです。思い返せば僕がげんしけんにハマってしまった原因はこの斑目の「良いと思ったものを買うときは値段を見ない」という漢らしすぎる生き様に魅せられてしまったからでした。それでいてときおり見せるヘタレっぷりは妙に人間らしさを感じさせてくれるものでもあり、羨望と親近感から僕もいつかは彼のような生き様を歩んでみたいと思ったものです。

続編である二代目ではこのヘタレっぷりのほうが圧倒的に強く感じられてしまったため、僕は楽しかった思い出はそのままにと、読むのを一度止めてしまいました。その分、最終巻で飛び出た「「あの頃の俺」を取り戻すぞ!!」発言にはシビレさせられたのですが(読んでてちょっと声が出た)、その後は春日部さんに言われるがままにあっさりとスーと付き合いだしていたために、僕はもう何が正しいのか分からなくなってしまうと同時に、こんな続編を生み出してしまった資本主義社会というものを恨まずにはいられませんでした。

 

そんな斑目に憧れていた僕ですが、過去の斑目のようになることはおろか、新しい斑目のようになることももちろん出来ず、中途半端なまま、ハーレムだって作れやしません。他のキャラに例えるならば、ふさわしいのは朽木でしょうか。彼のように、皆が知らされていることを一人知らされず、あんな誰も彼もがくっついていくヤリサーにおいて一人さみしく過ごし続ける彼の姿に自分の姿を重ねてしまっても無理はないことなのでした。

というか斑目的イベントは起こる気配すらなかったのに、朽木的イベントは割と身に覚えがあるレベルで起こっていたので、これはもうどうしようもありません。

 

あれは僕が大学生のときのことでした。当時の僕は大阪日本橋という割とどうしようもない場所で、アニメグッズショップ店員というどうしようもないアルバイトをしていました。入った当初は男だらけの職場で、アルバイト募集に女性の応募があった時なんかにはまだ面接に来るどころか履歴書も見てないのに、可愛い女性が来るはずと信じてやまない男子校のような職場でした(ちなみに、件の女性は面接担当者曰く「ゴリラみたいだった」とのことでした)。

そんな男女比10:0だった職場もいつの間にやら女性の応募が増え、当初いた男性スタッフが抜けたこともあって男女比が拮抗するほどになっていました。女性とろくに話せないという大病を患っていた僕でしたが、こんな店で働いているからには皆趣味なんかが似通っており、割とスムーズに話せていたように思います。中には「こんな人がアニメとか見んの!?」と思うような人もいたりして、まだ見ぬ未来への希望を膨らませたりしたものです。飲み会なども企画されたりして、一般的に人格破綻者みたいな人材が多いと思われるオタクが集まっているとは信じられないほど、人間関係は良好だったと思います。

残念ながら僕は特に良いことが起こるわけでもないままにアルバイトは辞めてしまったのですが、その半年後くらいに同じ時期にアルバイトを辞めた人と飲みに行く機会があり、そこで思いもよらなかった裏側の世界を知らされるハメになってしまったのです。

 

飲み始めて2時間ほど経った頃だったでしょうか、お互い酔いも回っていい気分になっていたのでしょう、彼の口から衝撃の一言が飛び出してきました。

「そういえば、○○さんっていたじゃないですかー。ぼく、あの人と一時期付き合ってたんですよねー。」

○○さんといえば結構な美人さんでした。ゴミのような存在である僕にも優しく接してくれていたので、僕も彼女のことは好意的に捉えておりました。正直この時点で嫉妬の炎が燃え上がり、酔いも覚めそうになっていたのですが、この時点ではまだ事の重大さに気付いてはおりませんでた。

「あの人メッチャ積極的なんすよー。色んな意味でねw」

どうやら○○さんは超絶淫乱の素養に溢れておられたようですね。前日肉棒などのいやらしい物体を舐め、嬌声を発していたその口で僕にも優しく話しかけていたわけですか。そんなに積極的なのでしたら、その積極性をもってして僕の肉棒も舐めてくれてもよかったのではないでしょうか。どうやら同じ職場の仲間が困っている場合には、その積極性は発揮されないようです。

僕はその付き合っていた時期にも一緒にバイトをしていたはずなのですが、そういった話は一切知りませんでした。一体どういうことなのでしょう。

「隠しときたかったみたいで、黙ってましたからねー。」

なるほど、積極的なのは夜だけの話で、昼間の仕事中は結構シャイだったわけです。これがギャップ萌えというやつなんでしょうか。なんだか違うような気がします。

というか彼は一体僕に何を伝えたいのでしょうか。こんなことを聞かされた僕はどんな反応を返せば良いのでしょう。彼らがどんなセックスをしていたか想像してみて彼に答え合わせでも求めたら良いのでしょうか。やっぱりコスプレとかしちゃうんだろうか・・・。光るコンドームがあるってのは聞いたことがあるけど、アニメキャラがプリントされたコンドームなんかもあるんだろうか。混乱する僕に新たな言葉が襲いかかります。

 

「他の人たちもそうだったみたいですよ。」

ほ、ほかのひとたち・・・?嫌な言葉を察知し、思わず身構えます。

「かたやまさんは知らなかったかもしれないですけど、他にもこっそり付き合ってる人いましたよ。」

その瞬間、一瞬で酔いから解放された僕はジョッキを握り締め、彼の顎に渾身の一撃を与えます。

なにそれ・・・?僕が真面目にバイトしてる間にあんたらはこっそり乳繰り合ってたっていうの・・・?

というか皆とは結構仲良くできてるなとか思っていたのですが、僕にはその辺りの話を隠されていたあたり普通にショックでした。

「例えば△△さんと□□さんとかもそうでしたよ。」

脳震盪を起こし泡を吹いている彼の口から、知っている名前が続々とあげていきます。そのあまりの多さに、僕は友情とは一体なんなのか、宇宙はどこまで続いているのだろうか、世界の不思議を考えずにはいられませんでした。

嬉しいことに、あがった名前にはバイト先の女性の名前がほぼ全員含まれておりましたので、どうやら僕が働いていたところは尻軽ばかりの素晴らしいお店だったようです。そんな環境に身を置きながら、一切浮いた話のなかった僕は何者になれるのでしょう。こんな訳のわからない話で自分の未来を憂うことになるとは想像すらしていませんでした。

 

朽木くんですら卒業前に真実を教えてもらえたというのに、僕は半年も経ってからようやく教えられるという始末。こんな悲しい思いをするのなら、いっそ全てを知らないままで生きていたかった・・・。どうやら僕は朽木くんにもなれないようです。